物語は【美術大都市コルトヴィオレッタ】にある美術の専門学校から始まる。
学校の生徒であるミヨルは課題に煮詰まっており、自主的に居残りで作業をしていた。
少し前までは友人たちと描いていたが、その友人たちは既に帰路につき、今は一人で黙々と描いている。

ミヨルは今「目の前に課題があるから絵を描いてる」
ただそれだけだった。

最初は楽しくて描いた。次に、周りに褒められたから描いた。
うまく描けなくて悩むこともあったが、やっぱり楽しいし嬉しいからまた描いた。
公募に出したら賞も貰えた。
ミヨルには絵の才能があった。
こうして美術の学校にも進学した。

しかし、成長するにつれ「描くこと」は少しずつ変化していった。
そして、今は壁にぶつかっているというやつだ。
ミヨルには絵の才能があった。
でも、いくら恵まれていると思われても、本人が満たされていなければそれらは意味を成さない。

幼い頃、将来は画家さんかなぁと思っていた。
しかし画業は収入が安定しない。ましてや自分がいる「美術大都市」という激戦区だ。
このまま進んでいいのだろうか。
道を変えた方がいいのだろうか。
筆の動きはしばしば止まる。

息抜きに珈琲を飲みつつ、校内のインフォメーションにある個展のDMや美術館の券を眺める。
こういった目標があったら、踏ん張れるのだろうか。
楽しいで始めた絵。今は少し苦手かもしれない。
苦しいとか、哀しいとか、そう思ってまで描く理由がよくわからなくなっていた。

ふと見慣れない美術館の券があった。
コルトヴィオレッタにある美術館の大体を把握しているミヨルは不思議に思い、その券を手に取ると。

次の瞬間、神隠しに遭った。

神隠しの先にあったのは不思議な美術館。
おそらく、自分がいた世界とは別の世界にある不思議な美術館。

「帰りたい」

元の世界に。
ただ夢中で楽しく描いて笑っていた、あの頃の自分に。

「行こう」

よくわからないを、確かなものにしたいから。

(あと生きて帰るまでが神隠し)